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2017年 08月 04日
サム・シェパードが死んだ。ジャンヌ・モローも逝き、この夏は知った人近しい人が何人も逝った寂しい夏だった。 アメリカ人男優で誰がいちばん好きかと聞かれたら、私はやっぱりポール・ニューマンかなサム・シェパードかなというくらいのファンだったが、その風貌と人気からゲイリー・クーパーの後を継ぐと言われていたらしいのに、さっさとオフ・ブロードウェイの劇作に活動の場を移してしまい、映画にはたまに脇役で出てくる程度になった。そして50作以上の劇を書き、"Buried Child"でピューリッツァー賞をとった。 そういえばまだ読んでないサム・シェパードの本があったなあと思い出して探し、追悼の意を込め、敬意を表して読んでみた。"Great Dream of Heaven"(2002)という、6ページから8ページくらいの短い作品が18本入った短編小説集で、長年のパートナーだった女優ジェシカ・ラングに捧げられている。これがめっぽう面白い。 焼けるように暑く乾いたアメリカ西部の風景のなかで人々の心が少しずつずれていく、苦いユーモアのある物語が多く、人っこ一人いない真昼の田舎町の公衆電話からぶら下がる受話器だとか、だだっ広い平原を果てしなく伸びるハイウエイ上に落ちた傷ついた鷹の黄色い目だとか、映画の一場面を見ているような味わいがある。そのなかに、キッチンテーブルで宿題をしている中学生の姉弟と、心ここにあらずのシュールな父親の間でちぐはぐな会話が交わされる"Berlin Wall Piece"(ベルリンの壁の破片)というおかしな作品がある。 80年代について調べる宿題をしている13歳の少年は父親にいろいろ聞くのだが、父親は何も覚えていない。その時代に自分がいたことさえ覚えていないと言う。いっぽう自分が生まれてもいない時代のことを何でも知っている利発な2歳年上の姉は、思いついて自分の部屋からベルリンの壁の破片を取ってきて、これを明日学校に持っていってみんなに見せたらいいと弟に貸してやる。父親は驚いて「おまえ、いつベルリンに行ったんだ?」と聞く。このあたりの会話と描写がすごくおかしいんだが、姉は3歳のときに母親とエイミー叔母さんとベルリンに行った、「覚えてないの?」とあきれて父親に聞く。 ちょうど人々がベルリンの壁を壊しているときで、自分はそのときは意味がわからなかったが、まるでお祭りのような騒ぎで、みんなが興奮して通りかかった人たちに壁の破片を配っていた、そのときタクシーの窓から毛むくじゃらの手が渡してくれたのがこれだと彼女は言う。父親は妙に感心してジップロックのプラスチック袋に大事に破片を入れて、ラベルを付ける。それを読んで思い出した。私もベルリンの壁の破片を持っている。しかもラベルを付けて。 私も80年代のことはほとんど何も覚えていないが、自分がベルリンに行ったのでないのは確かで、ちょうどそのころベルリンに出張で行っていたハセガワさんからもらったのだ。その後ベルリンの壁の破片は土産物屋で売られるようになったらしいが、これはハセガワさんが自分で拾ってきた、と思う。時代の証拠品。私も相当物持ちがいい。いま流行りのミニマリストにはぜったいなれない性分だな。
by Kcouscous
| 2017-08-04 11:29
| 製本/本
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Comments(6)
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mot
at 2017-08-05 20:21
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またひとつ、エッセイが書きあがってるー!
シュールって言葉は今ひとつ使いきれないんだけども、この心ここにあらずのお父さんとKcousさんが奇しくも同じことをしていたというのは・・どういうことなんだらふ・・
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Kcouscous at 2017-08-05 23:58
*motoさん
私もシュールだと言いたいわけ〜?^^ この父親は「現実」を信じてないんだよね。何かが起きたとか、新聞に書いてあることはみな嘘だと思っている。自分のなかに拠り所とする確たるものが何もない。だから何も覚えていない。 だから現実の証拠品の「物」に異様に反応するのか? 私が「物」に執着するのは現実を信じていないからなのか??(哲学中…)
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min_y at 2017-08-07 11:02
サム・シェパードについては「パリ・テキサス」に出ていた俳優としてしか知識がありませんでした。
Kcousさんのおかげでまた読みたい本が増えてしまいましたが、これは翻訳は出ていないんですよね? 英文で読むのは私にはタフそうだから翻訳が出ている戯曲か小説、読んでみたいです。お薦めはありますか? それにしてもベルリンの壁を持っている日本人ってそうはいないと思います^^
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Kcouscous at 2017-08-07 15:01
*min_yさん
いや、みやげもの屋で買ってきている日本人はけっこう多いと思います。でもこれをくれたハセガワ家にはもうないそうです。やった〜!^^ サム・シェパードの翻訳本は絶版か品切れになっていて手に入れるのが難しそうですが、ボブ・ディランのツアーに同行して書いた『ローリング・サンダー航海記』だけはまだ文庫本で出ているようです。これはむかし読んで面白かった気がしますが、ぜんぜん覚えていないので、だまされたと思って読んでください(笑)。
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fusk-en25 at 2017-08-10 03:00
初めまして。
私も壁の破片を持っています。 当時ベルリンに住んでいた。訳のわからない?ものを作っていた 韓国人の友達が持ってきてくれました。 このジップロックの破片よりもう少し大きくて。 引き出しにしまっていたのを思いだしました。 こういうものは絶対に捨てられません。
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Kcouscous at 2017-08-10 10:35
*fuskさん
はじめまして、ようこそ。 おお、壁の破片、お持ちでしたか! どんなにおおぜいの人の涙が染み込んでいることかとか思うから、単なる物でもなかなか捨てられませんよね。 そちらの煌めく爽やかな写真もたくさん楽しませていただきました。
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